ひみつの友達
2007.6

ひみつの友達




1. 町外れの海に面した丘の上に、カズミちゃんという風変わりな少女が住んでいました。優しいママと、社交的なパパは、町のみんなの人気者でしたが、カズミちゃんはどこか声のづらい、神秘的なオーラをただよわせていました。ほら、ハンバーガー屋のニックも緊張しがちにが声をかけます。
「今日、クラスみんながウチに来てマリアンの誕生日パーティするんだけど、君も来ない?」
「悪いけどアタシ予定があるの。」
いつもこれです。
 カズミちゃんには秘密の友達がいます。ママもパパも知りません。二人が留守だったり、寝静まっている夜。それからカズミちゃんのお部屋の中でだけ、こっそりお話しするお友達たちです。今日は二人とも町の会議に行っていて留守なので、お家の中で隠れんぼをすることにしたのです。もう友達は隠れているみたい。カズミちゃんは誰もいない部屋に向かって叫びました。
「そこ ここ あそこ!みーんな、みーつけた! 」
『もう見つかっちゃったよー。』
椅子や鏡に、壁紙、スタンドライトがいっせいにもぞもぞと動き出すと、見る見る人の形になってカズミちゃんをとりかこみました。
「つまんなーい」
「おかしいなぁ。何でだろう?」
「残念ねぇ。完璧と思ったのに。」
「みんなダメダメ。ヘタクソだわ。」
カズミちゃんはパパそっくりに気取って見せて、得意げにニヤリと笑いました。
カズミちゃんのお友達はおばけだったのです。










2.   おばけはみんな、カズミちゃんが小さいころからこのお家にいました。テッドは前にこの家に住んでいた少年の亡霊でキッチンの天井のはしっこのシミにかくれています。はじめは夜トイレに行くときに見てはいけないとドキドキさせられたのですが、ある日かわいい帽子をかぶった年下の男の子だと気づいてからはすぐにお友達になりました。カズミちゃんとパパが大好きなママの得意料理のポテトサラダが、食事のときカズミちゃんのお皿から少し減っているのはテッドがつまみ食いをするせいです。
イザベラはママのお気に入りの白いレースの帽子にとりついた販売員の霊です。彼女にとっても店一番のお気に入りの帽子だったんですって。フランス人でとってもおしゃれなイザベラは、カズミちゃんにいろんな美容法やお化粧の仕方を教えてくれます。帽子はきゅっとすぼまって、大人っぽいエレガンスな形をしています。カズミちゃんが自分でかぶってもちっとも似合わないけれど、イザベラが帽子を少し斜めに直しただけで、カズミちゃんをハリウッドスターのような大人の女性に変身させてしまいます。
フランクは応接間にある赤白縞の肘掛け椅子です。でも本当はサーカスの占い師に呪いをかけられたピエロなのだとカズミちゃんは知っています。だってこんな派手な色の縞々、ピエロの衣装以外にありえませんから。お客さんのお話に飽きてしまったカズミちゃんにサーカスで行った“笑いたがりの国”の話しをしてくれたり、知らない言葉で子守唄を歌ってくれたりします。おまけにすごい力持ちです。パパが座った上にカズミちゃんが座ってママが抱きついたってへっちゃらなんですから。
ハンナはテッドのお姉さんで、カズミちゃんの部屋の鏡に隠れています。まねっこが上手でいつもカズミちゃんそっくりな顔をして出てきます。ママのまねをして出てきてカズミちゃんを驚かせたこともあります。カズミちゃんとハンナは同い年なので、いつもいろんなことを相談します。でも女の子同士なのでいつも仲良しとは行きません。先月カズミちゃんのお気に入りのリボンをハンナが隠していたのでケンカしたときは、丸々一週間二人は口を利きませんでした。









3.   かくれんぼにあきたカズミちゃんたちは、夕方の町に出かけることにしました。だけどこれは物凄い大冒険です。お化けが見つかったら、警察につかまって檻に入れられてしまうかもしれませんから。それに和美ちゃんのパパとママに見つかっても大変!だからみんなは用心のため、真っ黒な衣装をそれぞれ着込んで出かけることにしました。フランクは手品師からもらった長いコートを。イザベラはマーメードラインのスカートに黒い月傘を合わせています。(パリの社交界では常識なんだって!)亡霊兄弟は、ママ特製のおそろいバットマンマントを自慢げに羽ばたかせています。カズミちゃんは旅行用に買ってもらったばかりの黒いワンピースを着てきました。
しばらく歩くと、人一倍にぎやかなお店を見つけました。それはニックのお父さんのお店“マクドネスバーガー”です。お店の中ではちょうど子供たちが楽しそうにゲームをしてるところでした。カズミちゃんがそこを通り過ぎようとしたときです。お店の中からひときわ甲高い声が聞こえてきました。
「あのカズミを誘うなんて、どうかしてるんじゃないの?」
カズミちゃんは心臓が凍りついたような気がしました。だってその声にはあからさまな嫌悪感が現れていましたから。
 それを言ったのは雑貨屋のトニーでした。
「オレ見たんだ!お届けものをしに行ったときに。アイツ誰もいないキッチンで必死に誰かと言い争ってたんだ。アホみたいに上を向いてさ。何かと思ったらシミだよシミ!!」
どうもテッドをしかった時のことを言ってるみたいです。わからなくて当然。秘密の友達はカズミちゃん以外には見えないんですから。
「だからアイツは魔女なんだよ!絶対間違いないね!!」
「そんなことわからないじゃないの!」
テーブルの中央に座ったマリアンがトニーを鋭く一瞥しました。白い素敵なドレスを着ていてまるで女王様みたいです。
「それに魔女だったとしても素敵じゃない。うちの天井にもシミがあるわ。彼女それとも話せるのかしら?」
それを聞いたとたん、カズミちゃんの胸の氷はあっという間に溶けて消えてしまいました。女王様みたいなマリアンの言葉はまるで国中がひれ伏してしまうぐらい偉大な宣言であるかのようにカズミちゃんの耳に聞こえました。
「私、彼女に来てもらいたかったわ。」
少し寂しそうに声を落としたマリアンに すまなそうにニックがいいました。
「残念だったよね。でも彼女忙しいみたいなんだ。予定があるっていってたし。」
「魔女の会合があるのかもしれないわ!」
お下げの子が言いました。
「だとしたらかっこいいなぁ。ぼく一度でいいから空を飛んでみたいや。」
メガネの少年がそういうと、みんな口々に賛成しました。
「彼女が来てくれればクラス全員でマリアンのお誕生日をお祝いできたのにね。」
カズミちゃんは窓の外で、誘いを断ったことを本当に後悔しました。
「おいトニー!彼女が魔女であるという意見にみんな大賛成だ!!報告ご苦労さま。」
ニックはトニーに向かってわざと深々とお辞儀しました。もともと短気なトニーは、みるみるうちに真っ赤なトマトみたいになって、店の天井を突き破るんじゃないかと思うような声でニックに怒鳴りつけました。
「そんなに魔女子がスキなのかよ!そうかお前は腐りかけのゾンビだな?これだけ離れててもくさいんだよ!!」
 これを聞いたときです。カズミちゃんの中で小さなかんしゃく球がパチンッ、とはじけました。

「みんなお願い!アイツをギャフンと言わせて頂戴!!」








4.   カズミちゃんがそういい終わるか終わらないうちに、四人はあっという間につむじ風になって店の中へと滑り込みました。次の瞬間、トニーの顔めがけてマリアンのバースデーケーキが吹き飛びました。
「ぐぇっ!」
トニーがつぶれたカエルのような声を出してケーキを受け止めると、待っていたかのようにトニーの椅子がドッタンバッタンと暴れだしました。トニーも顔をこすりつつロデオさながらにしがみつきましたが最後にはおしりを蹴り上げられて、店の床に放り出されてしまいました。
「な、なんなんだよぉ・・。」
そういって真っ青な顔で立ち上がったトニーの顔を見て、店中の人が大笑いしだしました。だって、まるでパリのカンカンダンサーのように真っ白なおしろいにまんまるほっぺのお化粧をされてるんですから!わけのわかっていないトニーに親切な友達が教えてやろうと思っても、おかしくておかしくて。「か・・かお」これだけ言うのが精一杯。トニーは困惑したようすで窓ガラスに映る自分を覗き込むと・・・
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
なんと、ガラスに映った自分自身が飛び出てきて自分自身のほっぺたにキスしたのです!これを見たみんなもびっくり。思わず店中が固まりました。錯乱したトニーは一目散に店の外へと飛び出そうと店の手口に手をかけました。その時、戸口がゆっくりと開いてカズミちゃんが入ってきたのです。
「あやまりなさいよ。」

カズミちゃんは、ゆっくりと、はっきりと、店中に聞こえる声で言いました。完全に気おされてるトニーは気が動転してうまくしゃべれません。

「こ、こ、殺さないで!」
のどに張り付くような声でトニーそういいました。
「え?殺すって、え?何?」
いきなり出た物騒な言葉に、カズミちゃんはつられたように動転してしまいました。ただただ、なきながら許しを請うトニーに、カズミちゃんは何がしたかったのかよくわからなくなってしまいました。
「私はただ、ニックに言った失礼なことを取り消してほしかったんだけど・・・?」

多分、この店にいるすべての人が動転してわけがわからなくなっていました。でもこのカズミちゃんの言葉を聴いたとき、すぐに正気に戻れたのは、さすがこの店のリーダー。店長のマクドネス氏でした。

「うん。そうか、そうなんだな。」
そうつぶやいてうなずくと、ことさら勢いよくとニーを立たせ2,3回力強く彼の肩をたたいてやりました。

「落ち着け坊主。俺の店では誰も殺させたりなんてしないさ。どんなことがあったって、この俺が守ってやる。それにこのお嬢さんは、オマエのことなんか殺したいとも思ってない!」
「!?ほ、ほんと!!」
トニーは驚いたように、例のあの顔でカズミちゃんを振り返りました。その、涙でぐしょぐしょになったあまりにひどいの顔を見て、カズミちゃんは我慢し切れなくて吹き出してしまいました。
「あっはっはっはっ!!
もうダメ、その顔!我慢でき・・あはははは!」

その明るい笑い声を聞いて、その愛らしい笑顔を見て、その店中の人が、この町中の人が、カズミちゃんがとっても素直でいい子であることに納得して、そしてみんながカズミちゃんの大ファンになってしまいました。









5.   それから月日はたち、マリアンとカズミちゃんは親友になり、ニックとは恋人同士になりました。そして、休日には仲間とピクニックへ出かけ、平日はマクドネスバーガーで働くようになりました。町中の誰もが彼女の友達になったのです。

 しかしその代わりに、秘密のお友達とはあれ以来まったく遊ばなくなってしまいました。もう、サラダが減ったり、ママの帽子をかぶったり、椅子で居眠りしたり、リボンが突然なくなったりしない。もう姿を見ることも、語りかけることもできない。
カズミちゃんが大人の女性になったからです。

 でも、彼らはそれからもずーっと、この町にいたのです。町中の人々が寝静まった夜、秘密の友達はひっそりと会議を開いていました。カズミちゃんの子供がこの独りぼっちの子供部屋にやって来たら、いったい何をして遊ぼうかと、長い長いリストを作って待つことにしたのです。

そらもうすぐ、このドアを開けて・・・。






〜 THE END 〜









モドル

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【こぼれ話】
友達の誕生日記念で書いた作品。絵本にするつもりがテキストしか仕上がらす。
このパターン多くてまいるな…。実際の彼女も明るいイカした魔女っぽいです。